第6章 その2
父の虐待に苦しんだ幼少時代、イジメに塗り固められた10代、パワハラと不当な評価、チャンスを奪われ鬱となった20代、活動は一向に評価されないまま30代に突入。何度も絶望しながらも、それでも立ち上がろうとしてきた人生でした。
さらにもう1度だけ、と思って頑張ったのに、結局は絶望にしか行き着かない。そんな中で出逢った運命の人だと思った女性とは、裏切り合ってしまった。どんなに努力しても結局は何も得られず、得たと思ってもすり抜けて落ちて行く。そして今、僕に圧し掛かって来たものは、逮捕される事への恐怖でした。
僕にはもう、何もありませんでした。可能性も、未来も、夢も、希望も。あるのは見渡す限り無限に広がる真っ暗な絶望だけでした。
生きて何がある? たまには良い事もある? それがどうした。たまの小さな良い事と引き換えに、とてつもなく辛い思いを繰り返すのが人生?そして僕はこれから、逮捕される。生きる理由・・・あるのか?
・・・・・もう、充分過ぎるほど頑張った・・・・・死のう・・・・・。
夜中、僕は結び目を作ったネクタイを部屋のドアの上部に通しました。ドアを閉めると結び目が引っ掛かり、落ちない首吊り縄が出来上がりました。積み重ねた雑誌を踏み台にし、ネクタイの輪に首を通すと、足元の雑誌を崩しました。
首を吊ると、ものの1秒で目の前が真っ暗になり、意識が飛びました。格闘技などで言う「落ちる」と言う状態はコレなのかもしれません。でも、苦しいと言う感覚はありました。一部では「むしろ気持ち良い」なんて説を聞きますが、僕はそうではありませんでした。
真っ暗闇の夢の中で、苦しい感覚だけはハッキリある。でもその意識は身体と切断されたため、もがいて縄を外す事もできない。僕の場合はそうでした。
・・・・・。
静かに目を覚ましました。意識は朦朧としていましたが、自分が床に倒れている事は解りました。足の指が1本痛かったです、そしてまた気を失いました。
その後、レスキュー隊が部屋に入ってきた場面、救急車で運ばれている最中の場面など、いくつか断片的に意識が戻った場面を経て、病院のベッドの上で目が覚めました。遺書のような物を残したため、朝になってそれを見つけた母が救急車を呼んだのでした。
兄夫婦も病院に駆け付けてくれていました。あとで聞いたところでは、首吊り縄として使用したネクタイが千切れていたそうです。意識の無い状態で落下し、足の指の痛みは、その時にぐねったのでしょう。
救急病院で2日ほど過ごした後、僕は精神病棟に閉じ込められる事になりました。監視されている精神科に入れば、その間は再び首を吊る事はないって事なのでしょう。ただ、僕には家にいるか病院にいるかと、首を吊るか否かは全く関係ありませんでしたし、僕自身は精神がおかしくなったとは思っていませんでした。「まともな人間が【死】を選ぶに値する出来事」があったのだと思っています。
しかし世間的には、自殺する奴はまともじゃないのでしょう。「母を安心させるために」の言葉に、僕は渋々入院を承諾しました。
0コメント