第6章 その1
改名から3年間は、2ヶ月に1度くらいのペースで細々と演奏活動を続けていました。
そして31歳を目前に控えた時、僕はネクタイで首を吊ります。引き金は、恥ずかしい話ですが恋愛絡みでした。しかし最後の引き金こそそれでしたが、結局は過去も未来もすべてを含めて、人生に苦しみしか見い出せない絶望だったのだと思います。
僕は27歳の時、人生で初めて女性とお付き合いをしました。役者として出演した舞台で共演した方でしたが、その頃の僕は鬱真っただ中、まともなお付き合いなんて出来ませんでしたし、お金もないのでとてもケチでした。そして何より心が狭く、どうしようもないほど人間的にしょうもない男でした。自業自得な話ですがものの2ヶ月でフラれてしまいました。
それから事務所を辞め、名前を変えた効果か、何人かの女性と親しくなりましたが、最初の彼女こそが僕の運命の相手だったのだと思うようになったのです。初めてお付き合いした相手だったからとか、そういう次元ではなく、その女性に特別な物を感じました。
「見えた」とでも言うのでしょうか、「この人なのだ」と確信したのでした。すると30歳の時、なんと奇跡のような復縁が本当に訪れたのです。「神様は居るのかもしれない」とさえ思いました。言葉で説明するのは難しいですし、詳細は省きますが、大恋愛でした。
鬱は事務所を離れた事でだいぶ回復していましたし、活動も社長と言うフィルターを通さなくなった分、事務所時代よりは遥かにマシでしたが、それでも収入面などから将来を真剣に考える岐路だと思いました。「結婚と就職」と言う事を意識したのはあとにも先にも、人生の中でこの時だけです。
具体的な段階ではないものの、「結婚」と言う言葉も出始めた直後でした。彼女が、妻子ある男と不倫をしていた事がわかりました。
その時、「嫉妬」というそれまで感じた事のない感情が、激しく僕の中を支配しました。あまりの嫉妬と、何処にもぶつけられない腹立たしさから、僕は相手の男性に対し、「知ってるぞ、金を用意しなきゃバラしてやる」と匿名メールを送ってしまったのですが、この行動が「脅迫・恐喝」として警察沙汰になってしまったのです。
勿論お金を受け取る気なんて微塵もなく、相手の男性に対して恐怖を与える事だけが目的でした。僕の行為は許される物ではありませんし、馬鹿な事をしたとずっと後悔しています。しかしこの時の僕は、そうせずにはいられないくらい彼女を独占したくて仕方なく、嫉妬に頭も心も狂って、正常な判断ができなくなっていました。相手男性に対して何かひと泡吹かせなければ、どうにも収まらなかったのです。
そしてこれが警察沙汰になった際、彼女は僕側ではなく、その男性側の味方の立場を取った事に、僕はさらなるショックを受けたのでした。みんなが傷つけ合いました。でもその経緯はともかく、この中で法律的に犯罪となるのは僕だけでした。僕だけが悪者となってしまったのでした。
0コメント