第4章の「今にして思う事」2
みんなも僕と同じ、いや僕以上に社長を軽蔑していた事を知りました。僕が当時その事をあまり知らなかったのは、劇団仲間と本音を語り合えるような関係作りもしておらず、充分なコミュニケーションが取れていなかったからなのだと思います。
僕は彼らを仲間としてよりも、ライバル的にしか捉えておらず、打ち解けようともせず、自分だけが真実に気付いているような気ですら居たのでした。実際は、僕よりも他の団員のほうが、遥かに物事を見極めていたのでしょう。そういう部分も含めて僕は視野が狭く、実力不足だったという事です。
ボイスサンプルに関しては、仮に消去事件がなかったとしても、結果は変わらなかっただろうと思うようになりました。まず、急な録り直しとは言え、2度目の録音の際に良い音源が録れなかったのは、紛れもなく僕の実力不足です。
また、大阪事務所と東京事務所の連携は、僕らが説明されていたよりも遥かに弱く、当時の大阪事務所の非力なマネージメント力では、仕事獲得にも、東京事務所への推薦にも発展できなかったでしょう。そもそも、あのボイスサンプル収録は、僕が人生を賭けて意気込むほど、大した可能性を秘めた物ではなかったように思います。
その後、事務所及び劇団がどうなったかと言うと、僕が辞めたあと残った在員達も次から次へと辞めて行き、2年弱で8割以上のタレントが辞めると言う無残な崩壊を迎えました。そのうち半数は、役者業そのものも辞めてしまいました。将来有望な才能の集団だっただけに、本当に勿体ない話です。
本部から社長が解任され、別の方が社長に就任されたのをきっかけに方針が変わり、今は随分とまともな運営ができているようです。贔屓された先輩も徐々にボロが出始めたのか本性がバレて来たようで、仕事先からクレームが来たり、セクハラが表沙汰になるなど色々問題になり、役者業も辞めたようです。
僕が事務所を辞める事が決まった日、たまたま事務所の前で、養成所時代に講師として1年間クラスを担当して下さった役者さんと会いました。事務所に入ってからも、何度か舞台で共演させて戴き、大変お世話になった方です。
「辞める事になりました」とお伝えしたら、すごく残念がって下さりました。さらに数カ月前に共演した舞台での事を持ち出し、「あの時の演技が凄く良かった。主役級の役じゃないから新人賞とかの審査対象にはならないだろうけど、凄く良かったぞ!」と、賞なんかも引き合いに出して話して下さいました。本音だったのか、あるいは辞めて行く者への餞別と激励だったのか、でも、すごく嬉しかったのを覚えています。
その舞台は、鬱の中で自分に鞭打って無理矢理に頑張った舞台でした。社長に「お前の嫌味が良く出てる」と嫌味を言われた、僕が悪役を演じた舞台です。
余談ですが、1ヶ月間食事ができなかった時、「痩せられるかな?」なんて思ったりしました。しかし昔からどんなに食べようが、あるいは食べなかろうが、すぐには体重に影響しない僕は、1ヶ月もまともに食事をしなかったにも関わらず、体重がまったく変わっていませんでした。どうなってんだか、俺の身体・・・。
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